タイル施工「だんご張り」

タイル施工「だんご張り」に関する一考察

タイルの施工法に「積み上げ張り」というのがありました。

過去形なのは、今ではほとんど使われていない工法なのです。

タイル業界では通称「だんご張り」と言われていました。「つけとろ張り」などと言う人も。

時代的には明治末期、化粧煉瓦(張り付け煉瓦)の施工に始まり、関東大震災以降、煉瓦積みから鉄筋コンクリート(RC造)に駆体が変わると、外壁にタイルを張る工法としては戦前まで主流になっていました。当時、英国から導入されたバターリング工法(パンにバターを塗る要領)とも言われていた様です。

ざっくりどんな工法かと申しますと、タイルの裏に張り付けモルタル(厚み10〜20センチ)を「だんご」状に乗せ、それを壁に押しつけて揉みながら不陸を調整して、縦横に張った糸に合わせて真っ直ぐ張っていく感じです。それを一番下の段から上部へと積み上げていきます。技術的にも研鑽と経験が必要とされ、タイル職人と言えどもスグには出来る工法ではなく、だんご張りが出来てはじめてタイル職人だと言われていました。

昭和25年以降、戦後の復興から高度成長期、工業製品としてのタイルもドンドン製造され、近代建築の流れもあって、「積み上げ張り」も「改良積み上げ張り」「圧着張り」へと変わっていきます。工期短縮が期待でき(「だんご張り」は標準仕様書では一日に積み上げる高さは1.5m、大型タイルは1.0mまで)、熟練工でなくても出来るなどの理由によりますが、「だんご張り」はモルタルがタイルの裏に十分に回らず隙間が出来るため、白華現象によるエフロが問題になっていた事もあげられます。

以上は外壁に関してなのですが、内壁はまだ「だんご張り」が続いていきます。私が高校時代の今から約40年ほど前、夏休みにアルバイトで職人さんの手元をしていた時、町場(住宅など)の現場では、まだ「だんご張り」でタイルが張られていました。主にお風呂場の壁。

段取りで張り付けモルタルを作って、タイルを運んだあとは、職人さんがもくもくとタイルを積み上げていくだけなので、私はその間、ボーッと見てるだけ。とても良いアルバイトでした(笑)

で、その時に思ったのが、不陸調整をされた平坦な壁に、接着剤でペタペタ張っていくタイルの仕上がりに比べて、「だんご張り」の仕上がりの方がきれいなのです。なぜでしょう?不思議です。タイル職人さんもみな同じ事を言います。

そして今、「だんご張り」はほとんど採用されていません。職人さんも「だんご張り」が出来る人が少なくなっている実情です。でもタイル職人にとって「だんご張り」は必要な技術と考えます。リフォームや補修などの工事を請けている職人で年配の人は、数枚のタイルの補修なら「だんご張り」でチョチョチョイってやってしまうのです。普通でしたら下地を作って養生して、どうかすると次の日にタイルを張る状況でも、一瞬で仕上げてしまうのです。よって出来る方がいいに決まっているわけです。

タイル職人が取得する国家試験に「タイル張り技能士」というものがあります。この一級の実技試験では「だんご張り」の技術が試される個所が今もあります。時代遅れで必要ないのでは?との声もあると聞きますが、「だんご張り」のためのモルタルの調合比(貧調合)など、知ってるのと知らないのとでは、上記の様に仕事に差が出ます。ですが技術を覚えたところで、大手の現場で「だんご張り」がない以上、技術を高めていく場所がないことも否めませんが。。。

父の会社を継いだ時、営業と番頭をしていたので現場作業の経験があまりなく、当時、これでは職人になめられる!と思った私は、「一級タイル張り技能士」をまず取得しました。当時の実技試験では「だんご張り」がかなりの部分をしめていたので半年間、会社の駐車場で練習したのを今でも懐かしく思い出します(笑)

さて、モザイク関係で交流させて頂いてる宮川雄介さんが、長崎にある「日本二十六聖人記念館」の、あの今井兼次氏が作ったフェニックス・モザイクの修復をされるというので見に行こうと思っていたところ、実際に修復工事に参加させて頂く事になり、とても貴重な体験をさせて頂きました。

その際、大成建設さんが作った当時のドキュメント映画を見せて頂きましたが、改めてビックリ。そうです、フェニックス・モザイクは「だんご張り」で施工されているのです。1962年(昭和37年)に「だんご張り」?しかもお皿、火鉢、様々な陶器を?ドキュメント映画を見て唸ってしまいました。

そして修復の際、何枚かタイルを斫ったのですが、まー、しっかりと張らさっています!(北海道弁で失礼)上から目線で大変恐縮ですが、良い仕事してます。「だんご張り」は丈夫だと知ってはいましたが、ここまでとは。実際の施工は辰元タイルさん、平田金三郎さんがされたそうです。素晴らしい!貴重な体験をさせて頂き感謝です。

このようにタイル張り工法のルーツ「だんご張り」ですが、時代は変わっても基本的なものは変わることがなく、タイル屋のプロなら知っておきたいところ。

セメントをこねることも少なくなり、既製モルタルやボンド張りのタイル施工がほとんどの昨今。セメントと砂を自由に操れる左官屋さんにタイル工事も取られちゃうかも!

参考文献

「装飾タイル研究4 戦後建築に現れたタイル」(株)志野陶石出版部

「日本のタイル100年 美と用のあゆみ」INAXライブミュージアム

「建築工事標準仕様書・陶磁器質タイル張り工法」日本建築学会

「これだけは知っておきたい建築用セラミックタイルの知識」鹿島出版

「タイルの本 2009年10月号」タイルの本編集室

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