幼い頃に感じた全能感。知識が増えてゆくにつれ、その感覚は薄れていきました。連続していたはずの日々なのに、ふと非連続的な場面の記憶が蘇る事もあります。

 大人になった今や幼い頃に関わらず、私の狭い世界で当たり前に潜む違和感。思考の中で相反するはずのものが同時に成り立ってしまう時。或いは宗教的ではなく祈るようなような感覚に陥る時。点と点が線に、線と線が面に成り、面と面が立体に成っていく過程を目の当たりにした時。

 ちぐはぐでバラバラなピースの様でいて、良い悪い又は主観客観は関係なく、どこか芯の部分でつながる意識のように思います。

 モチーフには意味のないものは殆ど登場させません。何かの象徴であって個人の思考の核として表しています。また色はモノクロと赤を含めた7色で限定しています。動きや目線、ピースの並びの邪魔になってはいけないと情報量を減らしたいが為です。

 私は主要になるモチーフに「男の子」を使います。

 幼少期に女の子として育ち、女性として過ごしている私には、頑張れば男性になる事ができても時間を遡って男の子になる事はできません。私にとっては「男の子」は単純な異性ではなく、憧れや好奇の象徴であり嫌悪と嫉妬の対象でもありました。同じ人間なはずなのに、少し理解を超えた存在としていたのです。

 ただ社会性や性差を表す為にモチーフとして扱っているのではなく、制作に込める自分の記憶や感覚を、理解の超えた存在である男の子というフィルターを通して少し離れた距離で見つめたいのです。作品中の「男の子」は自分でもあり親しい他者でもあり、相容れない相手でもあって欲しいと願います。

 タイルモザイクの基本的な作業は、支持体と下絵を用意し、タイルをニッパーで割り又は磨き、専用接着剤で貼りつけ、最終的に目地材をタイル同士の隙間に埋め、表面を綺麗に磨き行程は終了します。

 タイルは3~5mmの陶器製と薄いものを使っており、食い切りという形のニッパーを使い割ります。割った際にはパキンと音が鳴る程度の硬質さがあります。

 1本の線も何ピースにも分け作っていきます。線を描くにも筆や鉛筆の様には上手くいきません。割って貼り、割って貼りを繰り返し描いていきます。

 同じものが2つとない小さなピースを拡げていく事で1つの大きな塊や形になっていく事、思いもよらない表情を作ってくれる事は、自分の理想や意志を超えた形が溢れ出してくるような感覚を覚えます。

 私にとって割って貼る事は小さな破壊と再構築であり、これらの思考や感覚の海を少しでも潜っていきたいと、日々制作を続けています。

落合 香木 OCHIAI KANAGI

  1988 仙台市出身

  2011 東北生活文化大学生活美術学科卒業

  2012 東北生活文化大学生活美術学科生活美術学科研究生 修了

         現在、仙台を中心にモザイク作家として活動中

 【個展】 2012 こどものことば / S A R P

      2013 こどもといと     / S A R P

      2015 もの言わぬ子  / S A R P

      2016 然るべき日    /晩翠画廊

      2017 50面相         /Gallery・Shin

      2018 白い午後     / S A R P

      2019 存在した日   /晩翠画廊

      2019 落合香木-タイルアートの世界-/宮城県多賀城市立図書館

      2020  N.E.blood21 落合香木展/気仙沼リアス・アーク美術館

                       その他、グループ展等 多数

 【受賞歴】

      2009 モザイクビエンナーレ 佳作

      2011 モザイクビエンナーレ 笠原賞

      2017 モザイク展2017     タイルミュージアム賞

      2019 三浦しをん著 

         「新装版 三四郎はそれから門を出た」 

          ポプラ文庫【装画】